社外取締役鼎談
多様性を重んじる健全な
企業文化の創造に向けて
カナデングループは、広く社会や産業を支える企業として、多様なステークホルダーに対する責任を果たすべく
コーポレート・ガバナンスの強化に取り組んでいます。その原動力となる取締役会のあり方を含め、
グループが直面する様々な課題について、社外取締役の3名が議論を交わしました。

取締役会の運営に対する意見
永島: 当社の社外取締役として9年間、取締役会の運営を見てきました。就任当初の取締役会は、今後の新しい取り組みについて議論するというよりも、業務執行状況の報告に対する意見が中心だったように思います。しかし、最近では組織改革や新たなM&Aなど、深い議論を要する審議案件が増え、取締役会は非常に活性化しています。この9年間の議論で特に印象に残っていることは、6年前にソリューションビジネスの拡大を見据えて新設したソリューション技術本部(以下、本部)の件です。新設当初は、営業部門の担当者に本部のスタッフが帯同し、現場の細かい課題にまで本部が関与する運でした。私は、この運用ではせっかく設置した本部が十分に機能しないと指摘し、営業現場と本部との役割分担について提言しました。今ではそれぞれの役割がかなり明確になり、大きな成果があがるようになっています。
伊藤: 取締役会での発言で心がけていることは2点あります。1点目は、IT・DX領域での経験やバックグラウンドを踏まえ、意見を述べるようにしていることです。当社グループでも、基幹システムや顧客管理システムの検討・導入が進んでいますが、その過程や運用方法については特に積極的に助言するよう心がけています。気になっているのは、IT系の知識や経験を持つ社内人材が少ない点です。IT領域に関する取締役会での議論を深める上で、デジタル人材の育成は急務だと感じています。2点目は、新規ビジネスの展開やM&A、協業に対する提言です。特にM&Aや協業は、当社グループでも頻繁に議題に上がるようになっており、海外企業との協業を含め、過去の経験を踏まえて積極的に発言しています。
今戸: 私は弁護士としての経験と、企業の役員としての経験、その双方の観点から発言することが多いです。お二人がご指摘されたとおり、最近の当社グループの取締役会には、M&Aに関する議案が頻繁に付議されるようになりました。M&Aに限らず、新たなプロジェクトに関する議論では、リスクと機会の双方の観点から議論することが重要です。弁護士の立場としては、やはり「守り」を強く意識したリスク管理に関する助言を行います。リスクには、事業の成長のために取るべきリスクと、決して取るべきでないリスクがあります。その点をしっかり選別するよう、執行サイドの方々に投げかけるようにしています。特にリスクが高いと思われる案件については、契約書の文言の細部まで確認し、再考をお願いすることもあります。当社の社外取締役としての経験は3年ですが、就任当初に比べると、執行サイドの方々が取締役会に関与する機会は随分増えたように感じます。それだけ、取締役会での議論に力が注がれるようになったのだと思います。
ガバナンス機能に対する
評価と課題
今戸: ガバナンス面では、グループガバナンスの強化が今後の大きな課題です。積極的な海外進出が行われ、M&Aによる子会社化が重要な選択肢の一つとなるなかで、まだまだグループガバナンスにまで十分な配慮がなされていないのが現実です。特に海外子会社については、一般に不祥事の温床となるリスクがある一方、監査等でも直接的に目が行き届かない部分もあり、不安要素があります。まずは海外子会社の持つリスクをしっかり管理することに力を注ぐべきです。さらに言えば、リスク管理のような「守り」の対応に加えて、M&A戦略を含めたグループ全体の成長戦略を中長期的に推進していく上で、買収した企業をどう育て、グループの企業価値向上に貢献できるようにするのか、そのための体制づくりをどうするのかといった、「攻め」の対応も必要です。こうしたグループガバナンスや海外子会社の戦略的な育成について、当社グループはまだ経験が足りておらず、今後しっかり議論を重ねるべきです。
伊藤: 当社グループは、いわゆるPDCAサイクルを回し、それをスパイラルアップさせながら成長に導いていくという考え方が十分できていないように思います。執行役員会や成長戦略会議などでは、事業部門ごとに戦略を発表しますが、過去の振り返りや課題についての話と、今後進めていく戦略の話がうまく嚙み合っていなく、戦略が年度ごとにリセットされている印象を持つことがあります。掲げた目標に向けて企業を成長に導くためには、過去の分析・課題を踏まえた上で取るべきアクションを検討するという基本動作を大切にすべきです。こうした課題意識は本橋前社長もお持ちで、各事業部に指導していましたが、なかなか改善されていません。今後は守屋新社長のもと、引き続き課題の克服に努めつつ、そこに他社の動向や市場動向なども含め、当社グループが向かうべき道について議論を深めていただきたいです。

永島: 私からは2点指摘させていただきます。1点目は、今戸さんがご指摘されたグループガバナンスです。買収した国内子会社にしても、また海外子会社にしても、「任せっぱなし」の印象を受けてしまいます。今後はさらに管理を強化することと、現場の取り組みにもっと積極的に関与していくことが必要だと思います。これまで、特に問題も起こさず順調に進めてこられたのは、一つには監査部の力です。当社の監査部は、法令遵守や資金管理など、細部にわたる監査を実施しており、高く評価できます。今後は事業の管理強化に注力してほしいと思います。もう1点は、コンプライアンス委員会やリスクマネジメント委員会の運営についてです。コンプライアンスやリスクマネジメントについて、重要な事象は取締役会にも報告されますが、日々の業務で発生するようなクレーム事案や事務ミス、インシデント事例等の報告や改善策の協議も必要だと考えています。各委員会では、社外役員が内容を把握し、専門的な見地から助言するよう仕組みがあってもよいと思います。
取締役会の実効性向上に
向けて
伊藤: 取締役会では社長が議長となり、議論しやすい雰囲気ではありますが、もう少し、会社全体の戦略に関する腰を据えた議論ができる場であると良いと思います。執行役員会や成長戦略会議には社外取締役も出席しており、業務の現状は把握できますが、そこでは戦略そのものについての議論はあまりありません。社外取締役と監査役が一堂に会する場も年に2回ほどありますが、ここでも同様です。経営計画の策定段階から、社外取締役を巻き込んで深く議論をする企業もあり、そういった先進的な企業の事例から学ぶことがあってよいと思います。グループ全体の経営戦略のあり方については、社外取締役を交えて意見交換ができる場を是非設けていただきたいです。
永島: 伊藤さんの発言を補足すると、当社グループの場合、多くの事業部門があり、それぞれが打ち出す事業戦略の集合体が全社の経営計画のベースとなっています。年1回の成長戦略会議では、各事業部門が策定した年間の事業戦略ついて報告があり、私たち社外取締役にも意見を述べる機会があります。しかし、その入り口である各事業戦略の策定に関し、細部まで口を挟めるかと言えば、そこには限界があります。やはり、成長戦略会議や執行役員会などで、出来上がった戦略に対して意見をすることが重要だと考えます。取締役会については、やはり会社の発展とともに、一つの議案に対する協議の回数や議論の質が高まっていると感じます。特に深い議論があったのがサステナビリティです。将来想定される環境、社会課題に対する優先課題を特定するマテリアリティの議論では、社外取締役も多くの意見を述べています。商社という立場で環境課題に対峙することには難しさもあるのですが、そこも含め、しっかり議論ができました。

今戸: 確かに、取締役会ではサステナビリティを含め、重要な経営課題に関するアジェンダ設定が適切に行われています。私はサステナビリティ委員会のメンバーでもありますが、マテリアリティの特定については委員会において非常に深い議論がありました。今後はマテリアリティ項目ごとにKGI、KPIを設定し、具体的な行動につなげることが課題となります。
委員会でも、これについては取締役会に付議して議論してもらうべきなど、取締役会を強く意識した運営がなされており、取締役会の実効性向上を会社として高めていこうとする意識が強く働いていることを感じました。また、お二人がご指摘された事業戦略については、確かに意見を述べる機会はありますが、今後は単年度の戦略についての議論に加え、長期的なビジョンをどう描くべきかについてもじっくり意見交換をする機会を持つことが重要です。審議の場ではなく、ディスカッションの場を設けていただけると、中長期の成長機会についての議論にも深みが増すでしょう。
直面する経営課題に対する
提言
永島: 当社グループを長く見てきましたが、事業面においては好循環のサイクルに入ったと認識しています。個々の事業にはもちろん課題もありますが、M&Aを活用しながら事業ポートフォリオの変革も進み、ROEを改善させたことでPBRも向上しつつあります。一方、内部管理や内部統制の面では課題もあります。大きな課題としては女性の活用です。全社で見れば女性管理職はまだ少なく、指導的な立場に立って動ける女性人材も足りていません。この点は中途採用も含め、まずは女性管理職の数を増やす努力が必要です。また、サクセッションプランも社外取締役が中心になり昨年策定したばかりです。策定したプランにもとづき、新社長候補に対しては6か月間、専門家によるコーチングを受けながら360度評価も行い、その上で、社長を託せると確信できた人材を指名・報酬諮問委員会として指名しました。新社長人事を経験したことで、サクセッションプランや次世代リーダーの育成プログラムについても肉付けが進んできたと思います。
伊藤: お話のあったサクセッションプランの策定を含め、人的資本に関しては、私自身のこれまでの経験や知見を踏まえて助言をしています。経営トップや企業の幹部社員というのは、社内を統率する力に加え、お客様はもちろん、社外のステークホルダーや他企業・他業種の方々に対しても、しっかりとした意見が言え、良好なコミュニケーションを行える高い視座を持つことが必要です。その意味では、今回の新社長人事を見据えたコーチングでは、その点をうまくカバーすることができたと評価しています。経営人材の育成に限らず、社員のレベルアップに向けた取り組みについては、もっと力を注ぐべきです。また、先ほども事業部門が多くあるがゆえに苦労する話がありましたが、各事業部門の連携や、事業間に横串を通すビジネスを構想できる人材も必要です。女性の活躍については永島さんのご指摘のとおりで、女性管理職を増やすためには女性社員を増やす努力が必要です。そのためには、会社の知名度を高め、魅力的な会社であることをもっとアピールすべきです。IT系の人材確保も喫緊の課題です。大企業で学んだ専門人材にこだわるよりは、当社グループの規模や事業にフィットする人材を選ぶことも大切かもしれません。
今戸: 伊藤さんがご指摘された事業部門間の連携は重要な課題です。執行サイドでも以前から課題意識を持っており、DXの導入など、既に対策を講じています。これにより、チャットなどを通じて横断的にコミュニケーションが図れる仕組みが整いつつありますが、まだまだ十分に活用しきれていません。そこには部課長クラスの意識改革も必要でしょう。新たなシステムの導入や先ほど話のあったコーチングなど、新しいことにチャレンジする姿勢は素晴らしいのですが、足りていないのは、こうしたチャレンジを実りある形に仕上げるような、リーダーシップを持つ人材なのかもしれません。今後、当社グループがこれまで以上に彩り豊かな企業文化の獲得を目指すのであれば、女性を含め、多様な人材を取り込んでいくことが重要だと思います。
